水沼貴史の記事は水沼貴史を語る
昔は解説者として個人的にそれほど水沼貴史の評価をしていたわけではないが、数年程前に見た水沼貴史が語る日本代表の記事を見て個人的な評価が全く変わった。現在の日本人解説者というと、選手時代の目線を引きずりすぎて自分のやっていたポジションばかりへの偏った解説をする人や、理解していても上手く言語にできない感覚的な解説をする人。スポンサーやサッカー協会やクラブとの大人の関係によって無難な発言しかしない人。そんな人が多すぎる。割と批判的な事が言える重鎮すら現代の戦術的な問題には言及できず精神論を繰り返す有様。
そんな中ブラジルのW杯前に水沼貴史の書いた記事を見た。現状把握から改善点に至るまでセットになっており、素晴らしい見識だった。まあ私が何か言うより見てもらう方が実際読んでもらった方が理解してもらえると思うので、適当に抜き出してみる。
日本代表が0対1で敗れたベラルーシ代表戦を見ていて、非常に気になるシーンがあった。FWハーフナー・マイク(フィテッセ)が投入された後半40分以降、アルベルト・ザッケローニ監督がタッチライン際で何度も大きなゼスチャーを見せていた点だ。派手なボディーランゲージから伝わってくる選手たちへの指示は明確だった。
「ハーフナーへクロスを上げろ」しかし、身長194cmのハーフナーの高さは、最後まで生きることはなかった。というよりも、あえて生かそうとしない周囲の選手たちがいたと表現したほうがいいかもしれない。
ピッチ上の選手たちのプレーを見ていれば、彼らが何を狙っているのかはテレビ越しでもよく分かった。前線で孤立してしまったハーフナーが気の毒でならない。日本代表の選手たちが狙っていたこととは、試合後にMF本田圭佑(CSKAモスクワ)が言及した「新しいこと」に集約されるだろう。ベラルーシ戦では、FW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)が最終ラインの前あたりの低い位置にまで何度も下がってきていた。
ときには本田が下がることもあったように、ポジションを流動的にしながら相手の隙を突いて、ボールを受けて、さばいて、あえて相手選手が密集している中央を崩そうという意図だったと思う。ザッケローニ監督は「飾り物」
いままでのようにDF長友佑都(インテル)を中心とする左サイドに偏ってばかりいたら、来年のW杯で世界を驚かすことはできない。ならば、いまのうちに新しいことを試そうと選手たちが考えるのは、進歩を促す意味でも決して悪いことではない。
しかし、現状において危惧されるのは、ザッケローニ監督と選手たちとの間でしっかりとコミュニケーションが取れているのかどうかという点だ。
監督が新たな方向性を掲げ、その上で選手たちが話し合ってトライしているのならばまだいい。あくまでも私の憶測になるが、試合内容や試合後の選手たちコメントから外に伝わってくるのは、ザッケローニ監督という存在がどうしても「飾り物」に見えてしまう点だ。
ザックと選手の意図が大きくずれている
ハーフナーの高さを生かそうとしない点だけではない。FW柿谷曜一朗(セレッソ大阪)の相手の裏に抜ける能力が生かされない点も、ザッケローニ監督と選手たちの意図が大きくずれていることを物語っているように思えてならない。
ベラルーシ戦後には、セレッソのチームメイトであるMF山口螢がこんなコメントを残している。
「ボランチの選手がボールを持ったときに、曜一朗君は背後を取るような動き出しを何度もしている」一方でMF遠藤保仁(ガンバ大阪)は
「裏を取れない」と言っている。原因は何なのか。ただ単に前を見ていないのか。見ているけどタイミングが合わなくて縦パスを出せなかったのか。あるいは、タテ一発で素速く崩すサッカーを志向していないのか。
この先も変わらなければチームは成り立たない
本田は誰もが認めるリーダーであり、これまでも周囲の高い期待に応えてきたし、ベラルーシ戦後にコメントしていたように、これからもぶれることなく日本代表をけん引しようとするだろう。
ただ、ぶれない、イコール、意固地にはなってほしくない。現状を見る限り、本田が意固地になりかけていると映ってしまうからこそ、あえてこのようなメッセージを送りたい。
今回の欧州遠征で内容を伴わない試合が2つも続き、この先も変わらないようであれば、W杯本大会を前にしてチームの体をなさなくなってしまうおそれがあるからだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131019-00000003-wordleafs-socc
記事の中で出てきた「この先も変わらないようであれば、W杯本大会を前にしてチームの体をなさなくなってしまうおそれがあるからだ。」という危惧は見事に的中し、その後のブラジルW杯で日本代表は空中分解する。これを見抜く慧眼だけではなく、サッカーに対する正直な姿勢は特筆すべき物があると思う。私はこれを見て、というかこの記事を1度書いただけでも今後個人的な水沼さんの評価が落ちる事はないと思う。色々なスポーツ記事を見ているけど、こういうレベルに達して予想まで見事に当てている記事は中々ない。そもそも、こういう素晴らしい見識を披露する機会というのはそんなに多くはない。W杯の予見をするのは4年に1度のチャンスしかなく、その時に適切な問題点を見抜き政治的な課題をクリアし実際に記事に出来る解説者が一体何人いるだろうか。これを書いた結果ひょっとしたら水沼さん自身は少々苦境に陥ったかもしれないが、それすらこの記事を輝かせている材料の一つだと思う。
ハーフナーが再び代表へ招集される可能性が高い中、またこの記事が再び意味を持ち出していると思う。